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えすこら記録

日本語教師が見る日常の感想などです。

フィンランドのオートノミーについて調べてみた

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日本語教育でも「教えない」とか「自律性(オートノミー)」という言葉をよく耳にするようになりました。最初は「ふうん、そんなのがあるのか」程度の気持ちでしたが、自分の英語学習や日本語教育を振り返ると、「その要素があるのでは?」という思いになってきました。

自分で教育をやりたいと思ったきっかけの一つでもあります。「自分で考え、行動し、いろんな人に助けられながら目標を成す」のは、これからの時代でも絶対必用な知恵なんじゃないだろうかと考えるようになりました。

そこで、オートノミーの先進国であるフィンランドは、どんな教育をしているのか興味が湧き、国会図書館に籠もって調べましたので、まとめたいと思います。

 

 

 

 

オートノミーって?

自律性、つまり「自分」を「律する」力でしょう。鳴門教育大学の資料(1)では「自己の学習を管理する能力」あるいは「客観的視点、主体的振り返り、決断し、自主的活動をする能力」とあり、

 思い立って →  実行(振返り)して → 達成

という、最初から最後までを自分で責任をもって行える能力ともいえると思います。どんな形であれ、「自分で思い立って」「自分で管理して」「達成する」能力であると考えられます。

 

フィンランド人は英語上手

フィンランドは、少し前日本でも、その独特の教育方法で話題になりましたが、外国語(英語)教育にも定評があります。フィンランド語は日本語同様、英語とは文法や単語のルーツ(語族)が異なります。更に英語の授業数は日本の三分の二しかないそうです(1)。またフィンランドには塾はありません。それでも、2008年にはTOEFL(iBT)スコアは世界で8位にランキングされています(2)。なぜでしょうか。

 

フィンランドでの外国語(英語)教育

鳴門教育大(1)と富山大(3)の資料を読むと、なぜフィンランドでは英語ができる学生が多いのかの理由を垣間見ることができました。

フィンランドの教科書は副教材をあわせると、日本よりもかなり分量が多いのが特徴です。そして、クロスワードとか、イラストと文字を結ぶとか、宿題も一人で面白くできるように工夫が凝らされています。更に宿題の活用の仕方が面白い。

  1. 宿題でその日の復習
  2. 授業で宿題の確認(理解確認)
  3. 次の問をペアで行う 

という、「宿題が次の日の予習」にもなっているわけです。学生からすると、自分でやった内容が、次の日の理解を深めている訳ですから、知らず知らずのうちに「自分で良復習する」力が養われているではないでしょうか(宿題については、家庭の理解も大きく関わっているようで、親の意識も影響しているでしょう)。

また、教科書について、私が面白いと思ったのは「質問・設問」です。常に「意見と根拠」”What do you think, and why?” は自分の意見を英語で述べる訓練であると察せます。これも「自分で考えたこと」を「自分の言葉で述べる」練習でしょう。

 

 

振返りの重要性

日本の日本語教育でもDo not 三原則(4)「教えない」「決めない」「評価しない」と、今までとは違う価値観が注目され始めていますが、フィンランドではもうそれが教育現場で使われているようです。

フィンランドでは、授業後に「どれだけできたか」「この表現をどれだけ使えるようになったか」などを学生自身に評価することで、自分の評価にも責任をもたせています(1)

私はこの点がかなり大きいかと感じています。その日に何を学び、どこまで到達したのかを振返る。すると、「じゃあ次はこうしよう」とか「こういう分野が苦手だな」とか「良い教材あるかな」という思考になります。

「振り返って、反省して、改善策を考案する」流れは、PDCAサイクルとも比較できます。これは外国語習得だけでなく、生活からビジネスにも通用する思考回路です。この訓練を小学生のうちから日々行えるというのは、なんとも羨ましい限りです。

 

 

日本語教育にも通用するか

今回調べたフィンランドの教育は、小学校から高校までの教育で、言語能力以外の「自律性」、つまり「自分で考えて叶える力」を養うことがかなり考えられていると感じました。もちろん学校ですから、テストはありますし、大学受験は日本のような試験がありますから、日本のDo not 三原則等(5)とは異なる点は見られました。そして日本の日本語学校では、多くは18歳以上ですから、その性格も少し変わってくると思います。ですが、今後日本語教育でのオートノミーを述べるにあたり、これらの知識も大いに役立ってくると思いました。特に「振返り」については実践ですぐ使えそうな気がしてなりません。

 

 

 

 

参考文献

論文のページの記録を失念しました。すみません!!

 

(1)伊東治己,高田智子他(2015)『Autonomy育成の観点からのフィンランド英語教科書の分析』日本教科教育学会誌

(2)米崎里、伊東治己(2010)『フィンランドの小学校の英語教科書分析-Autonomyの視点から-』小学校英語教育学会紀要

(3)田畠康史, 増田美奈(2018)『日本の小学校外国語活動副読本とフィンランドの基礎学校英語教科書の比較と検討 : 英語学習開始段階に着目して』,教育実践研究 : 富山大学人間発達科学研究実践総合センター紀要

(4)奥田純子(2012)「日本語学習アドバイジング-その深さと大切さ-」早稲田大学日本語教育学会春季大会資料http://gsjal.jp/wnkg/dat/2012spring/120324_kouen_PPT.pdf

(5)木下直子,トンプソン美恵子他(2018)『日本語学習アドバイザーの育成に向けた実践的アプローチの効果の検討-自律的な学習者を支える質問力を中心に-』早稲田日本語教育実践研究 第 6 号,pp78